カメムシ合戦

「あの野郎、いつまで待たせやがる。」小錦辰朗は苛ついていた。季節は初冬。先日まで並木道を彩っていた色鮮やかな紅葉の葉は風が吹くたびに飛ばされ幹や枝は次第にはだけてゆく。木々たちも冬の到来を告げていた。小錦は冬が嫌いであった。理由はただ1つ「寒い」からだ。それ以外の理由は特にない。そんな訳であるから小錦が寒い中待たされることに苛立ちを覚えるのは当然である。「ぬ、小錦氏、オッスオッス」小錦が3本目のタバコを吸い終わった頃、ようやくその男は現れた。時間にして15分の遅刻である。「三島、遅れた理由を聞こうか。」男の名は三島能吉。小錦とは幼馴染で実際に会って話すのは8年ぶりである。「遅延でござるよ、ち・え・ん。そんなことよりカブトムシ捕まえにいくでござるYo!」三島はその魅力的なたらこ唇から妖艶な声色で囁いた。小錦は三島のあまりの艶めかしさに目を背けた。「カカカ、カブトムシは・・・こんな寒い時期にでてこねえよ・・・」驚いたことに少し見ない間に三島は美しく成長していたのだ。「じゃあカメムシでいいや!カ・メ・ム・シ」三島はもう小錦の知っている三島ではない。懐古による寂しさとこれからの期待で小錦は複雑な気持ちでいた。しかし昔も今も変わらないことが一つだけある。「(俺は三島を・・・)」苛立ちはもう消えていた。